鉄道を知らない人に教えたい3つのことその1・出発進行は鉄道用語

中学生の頃、そして高校生の頃と、鉄道を知らない人にちょっとしたお話をする機会がありました。相手はもちろん普通の人、一般人です。そんな人にどういった話をするのでしょうか。

私は、まだ鉄道を知らない人に鉄道のことを話すとき、3つの話題を決めています。それは、

・”出発進行”は鉄道用語である
・”列車”と”電車”の違い
・日本でもっとも本数の少ない路線と駅

です。今回は、一つ目の「出発進行は鉄道用語」についてお話をしたいと思います。

戦前は”出発オーライ”と言っていた

小さい子供たちが電車ごっこやバスごっこをしたりしていて、「出発進行!」って言ったりしてますよね。「出発」も「進行」も似たような意味ですから、一般的な言葉と認識されているきらいがありますが、本来元々は、というか21世紀の現在でもれっきとした鉄道用語なのです。そしてそれは明確な意味と目的があり、必ずしも出発するときに言うものではなく、また出発していないときでも言うことがあるのです。

説明のためには、まず「列車同士が衝突しないような安全を守るためにはどのようなことをされているのか」を知ってもらう必要があります。線路上に信号機が置かれていることはしっていますよね。もちろん、赤はとまれ、青は進んでいい、ということなのですが、道路信号とは違ってもっと複雑な意味があります。

自動車を運転する人は、前から向かってくる車や、前後を走る車とぶつかるのを避けるためにはどうしますか?車間距離をとることはもちろんですが、実際には目視で確認してブレーキのタイミングをはかりますよね。道路にある信号は、前後との衝突をさけるというより、左右の横断とぶつからないように、あるいは歩行者・自転車とぶつからないようにするために設置されています

鉄道の世界ではどうでしょう。列車はレールの上しか走りませんから、左右の安全を気にする必要はありません。ですが、前後の列車を目視してからブレーキをかけても間に合いません。600メートル条項というものが過去にあり、在来線の列車は基本的に最高速度で走っていても600メートル以内に非常ブレーキで止まれるように設計されています。ですが、曲線区間や濃霧、その他さまざまな条件が重なるので、実際にはぶつかる対象の列車を見つけたときには既に600メートル未満になっていることがかなりあります。ということは、目視してからでは遅いのです。

そこで、あらかじめ線路をいくつかの区間に区切り、それぞれの区間には1つの列車しか入れないようにします。これを閉塞(へいそく)といいます。そして閉塞と閉塞の境界に信号機を置き、前の閉塞に列車があるときは赤にすることにより、追突を防止しています。そして更に手前の信号機はこのとき黄色を示しています。更に更に手前の信号機が青を示すのです。

列車の本数が多い区間では更に信号の色の種類を増やし、細かく速度の制限を行っています。実際のパターンをここで紹介しましょう。速度については会社や路線ごとに違うのですが、代表的なものを紹介します。

G現示(青)   :進行、路線最高速度での運転が認められる
YG現示(黄と青) :減速、65km/h~75km/h
Y現示(黄)   :注意、45km/h~55km/h
YY現示(黄2つ) :警戒、25km/h
R現示(赤)   :停止、0km/h

更に、青2つの高速進行や、黄と青を点滅させる抑速など、ごく一部の限られた会社のみで使用している特殊なパターンもあります。ちなみに、信号機の色の表示のことを現示(げんじ)といいます。こちらも覚えておきましょう。


次に、信号機そのものの種類についてお話します。ここでは「出発進行」に関係するものだけ紹介しますが、それは3つあります。

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出発信号機(しゅっぱつしんごうき):停車場を出たところにある信号機
場内信号機(じょうないしんごうき):停車場に入る前にある信号機
閉塞信号機(へいそくしんごうき) :停車場以外の閉塞の境界にある信号機

停車場(ていしゃじょう)とはもちろん列車がとまる場所のことなのですが、実は2種類あります。

駅(えき)       :旅客・貨物等の営業を行う停車場
信号場(しんごうじょう):旅客・貨物等の営業を行わない停車場

これらをまとめて停車場と呼んでおり、それらの前後にある信号機が出発信号機と場内信号機で、それ以外はほぼ全て閉塞信号機なのです。

駅と駅の間にはいくつも閉塞がある場合もありますから、当然いくつも閉塞信号機がある場合もあります。このとき、進んでいくにつれ、閉塞信号の番号が減っていきます

また、出発・場内信号が特別な事情により複数設置される場合もあります(最大で5ぐらいまである)。このとき、進んでいくにつれ、信号の番号が増えていきます

たとえば、A駅からB駅に向かっているとして、A駅の出発信号とB駅の場内信号が共に2つずつ、間の閉塞信号が3つあったとします。すると信号機の番号は

A駅「第1出発」「第2出発」「第3閉塞」「第2閉塞」「第1閉塞」「第1場内」「第2場内」B駅

という並び順になるのです。


さて、ここまでで勘の良い方は既にお気づきかもしれませんが、もう少しお付き合いください。列車の運転士は、安全のためにこれら信号機を確認するとき、指をさしながら、信号の現示を声に出して言います。これを喚呼(かんこ)といいます。

では、出発信号機が進行現示のとき、運転士はなんといって喚呼するのでしょう?

そう、「出発進行」です。

もうお分かりいただけましたね。「出発進行」とは、運転士が安全確認のために発している言葉なのです。しかし、実際は駅を出るときであっても、出発進行とは言わないこともあります。それは信号とその現示が違う場合があるからです。

駅によっては、線路の分岐がない場合に、停留場といって出発・場内信号機がなく、代わりに閉塞信号機で代用されていることがあります。その場合、出発相当信号といって駅のすぐ先にある閉塞信号機が代わりになります。そういうときは発車する場合であっても、「第2閉塞進行」とか「出発相当進行」とか言って喚呼します。

また、発車するときは青信号であることがほとんどですが、ダイヤが乱れているときなど状況によっては黄のときや黄と青のときもあります。そのときは「出発注意」とか「出発減速」と言って喚呼します。

そして、もう一つ、駅を通過する場合であっても、出発信号機があってそれが青であれば、「出発進行」と喚呼します。動き出すときに言っている、というのは間違いなのです。

ではなぜ人々の間では「出発するときの掛け声」だと思われているのかというと、蒸気機関車が走っていた昔から、列車が発車するとき、一つ先の信号機はほぼ出発信号であり、ほぼ間違いなく青だったからにほかなりません

詳しい理由は鉄ヲタになれば分かりますが、蒸気機関車時代の昔は停留場ではなく停車場であったことがほとんどであり、出発相当で代用されることはまずありませんでした(車扱貨物や専用線を扱っていた時代は国鉄の路線では線路の分岐がある駅が90%以上だったため)。また、信号の色も青・黄・赤の3種類、もしくは青と赤の2種類で事足りたため、減速信号や警戒信号は珍しかったのです。ただし、通過する列車でも出発進行と言っていたのは昔から変わりません。ですが通過しているときは周りで運転士の声を聞く人はいませんからね。

戦前は進行現時を「オーライ」といって喚呼していたのですが、「進行」と呼ぶようになったのは外来語が咎められたからだという説があります。そもそも昔は腕木式信号機といって青か赤かしかない信号だらけだったので、進め進むな(とまれ)かだけが分かれば十分だったのです

ちなみに、私が好きな喚呼は「場内注意」です。運転席の後ろの車両であれば聞こえるので、みなさんもときどき気にしてみてください。あまり積極的に言わない人ももちろんいるのですが……。